途上国の衛生環境を変えるために──「磁化活性汚泥法」で下水処理を速くする挑戦
バイオ部門 鷲足 祐香
下水処理は、暮らしと健康を支える見えないインフラだ。けれど、設備や運用コストの制約が大きい途上国では、十分な処理が行き届かない地域も多い。
今回話を聞いたのは、そんな課題に「微生物×磁気」というアプローチで挑む大学生。微生物に磁性粉を混ぜ、沈降(沈む工程)を速めることで、下水処理の時間短縮と効率化を目指しているという。
──研究テーマを教えてください
下水処理における効率性を研究しています。具体的には、微生物に磁性粉を混ぜる「磁化活性汚泥法」に取り組んでいます。
下水処理では、微生物(活性汚泥)が汚れを食べて水をきれいにします。そのあと、微生物を沈めて上澄液(上の澄んだ水)を取り出す工程があるのですが、この沈降に時間がかかります。
さらに、エサ(汚水)の状態や、pH、温度などによって比重や性状が変わり、沈みにくくなることもあって、安定運用が難しい。なので、沈降にかかる時間を短縮したいと考えています。
──磁化活性汚泥法って、どんな仕組みですか?
活性汚泥(微生物の集合体)に磁性粉を混ぜて、汚泥自体を磁気に反応するようにします。そうすると、沈降だけに頼らず、磁気の力で分離を助けたり、沈む工程を短くできる可能性があります。
──「磁気分離」とは何でしょう?
磁性を持つ粒子や、それを含んだ汚泥を、磁石や磁場を使って引き寄せたり分けたりする方法です。重力だけで待つよりも、分離を速くできるのが強みだと思っています。
──成果のイメージは?
処理後の上澄液がよりきれいに取れて、なおかつ分離にかかる時間が短くなること。時間短縮ができれば、装置のサイズや運用負担の面でも導入しやすくなる可能性があります。
──水質に興味を持ったきっかけは?
小学校の頃から自由研究で水質を調べていて、水そのものに興味がありました。身近だけど奥が深くて、調べるほど疑問が出てくるのが面白かったです。
──本格的に研究を始めたのはいつからですか?
中学生から本格的に始めました。
「とちぎ子どもの未来創造大学」という活動で、宇都宮大学の先生と関わる機会があって、短期で研究してみたいと思い、3ヶ月間、定期的に通っていました。中1の頃から積み重ねて、中2ではオンライン学会にも参加して、中3ではより専門的で最先端の内容に触れるようになりました。
──高校ではどんな研究に取り組みましたか?
高1の頃、GSCプログラムなどの機会を通じて、途上国の中には染料産業が盛んな地域があり、染料排水が問題になっていることを知りました。
そこでは嫌気性微生物(酸素が少ない環境で働く微生物)を使うことも含めて、より現実の課題に近いテーマとして水質を扱うようになりました。実際に自分から水質を採取して調べるなど、より本格的に現場に踏み込む研究になっていったと思います。
──研究の最終目標は何ですか
途上国の衛生環境を改善することです。下水処理が整うと、感染症のリスクが下がったり、生活の基盤が整ったり、いろいろな良い影響があると思っています。
沈降に時間がかかるというボトルネックを縮められたら、導入や運用のハードルを下げられるかもしれない。そういう技術につなげたいです。
──将来はどんな人になりたいですか
研究者になることは大きな目標です。
それと同時に、研究に関心のある中高生を支援するような活動もしていきたいです。たとえば、りのあやアドラボの活動にも興味があります。自分がいろいろな人に助けてもらってきたので、次は自分が支える側にもなりたいと思っています。
──中高生のみなさんにメッセージをお願いします
やりたいと思ったことは、周りの人に伝えることで開ける世界があります。親や先生に発信して、少しだけでも多くのことにチャレンジしてほしい。好奇心を重視したいです。
(文・片岩拓也)