閉鎖生態系から見えた人と地球と宇宙の未来
ADvance Lab 副所長/ 宇宙部門リーダー 佐藤 翼
宇宙に住める未来を本気で描き,好奇心と行動力で未来を切り拓く研究者がいます。慶應義塾大学1年生の佐藤翼さんです。身近な素材でつくった 縮小型人工閉鎖生態系の実験から始まった研究活動は,宇宙移住を軸に多彩なテーマへと広がりました。佐藤さんの研究の背景やビジョン,そして中高生へのメッセージをうかがいました。
■ 研究を始めたきっかけを教えてください
僕が宇宙に興味を持ったのは,4歳の頃の小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還したときです。イトカワからサンプルを持ち帰った偉業や,あきらめない姿勢に惚れ込みました。それからは,JAXAの先生方の講演会に足繁く通いました。そしてその思いは、中学生になる頃には「どうすれば宇宙に住めるのか?」という問いへと変わっていました。
■ どのような経緯で「縮小型人工閉鎖生態系」を研究するにいたったのですか?
宇宙で暮らすには,豊かな自然や生き物などの地球生態系の移転が不可欠だと感じています。学校の先生に「君らしい研究を」と後押しされ,第2の地球をつくるため,地球生態系の再現に取り組もうと決意。これが研究の原点です。
最初は身近な容器に土や植物の種子を入れ,簡易的な閉鎖空間をつくりました。しかし長期間の実験の中で容器の破損や,閉鎖空間ゆえに植物が全滅するなど,思い通りの結果にならないことが続きました。ある日,山の地下水をヒントに地下水層を導入した生態系をつくると,閉鎖系での植物の生存率が50~100%へと劇的に向上しました。
4年分のデータを持って臨んだ学会では,多くの方から意見をもらい,宇宙での快適な暮らしを実現するという,大きな夢へとつながるきっかけになったと感じています。
■ 中高生の皆さんへのアドバイスをお願いします
僕のモットーは,ユニークでクリエイティブで誰もやっていないことを誰よりも楽しむ。子どもの頃のワクワクは研究を突き動かす最高のエネルギーです。論文に感動したら著者に連絡する,廃材で実験装置をつくる。そんな無邪気な行動が未来を開くと信じています。皆さんも好奇心を忘れず,一歩踏み出してみてください。それが研究者への道を切り拓くはずです。
(文・ADvance Lab 小松 和滉)