料理感覚から始まったゲル研究者への道
ものづくり部門 谷垣 聡音「人にも環境にも優しい世の中をつくりたい。その想いが私を研究へと導きました。」筑波大学医学群医療科学類2年生で、ADvance Labを運営する一人である谷垣聡音さんは、持続可能な素材開発に熱中しています。ゲルという不思議な素材に触れるうちにその魅力に引き込まれ、気がつけば研究に没頭するようになったという彼女が、研究者としての歩みをどう感じ、今後どのようにADvance Labで課題解決に挑戦していきたいのか、話を伺いました。
研究者という呼び名に抱いていた誤解
かつて研究を始めたての頃、谷垣さんは「研究者」と呼ばれることに抵抗がありました。その響きには真面目で堅そうな印象があり、いけてないと感じたそうです。研究者といえば、ロジックに基づいて冷静沈着に話すおじさんのイメージが強く、遠い存在でした。しかし、高校2年生の頃から少しずつ研究に足を踏み入れてみると、研究者は冷静どころか、情熱に溢れていることに気づきました。
「大学の教授からも研究者とは何かひとつのことに対して“オタク的”な興味を持つ人々であると教わりました」。多くの研究者が確固たる考えや哲学を持っていると知り、いつの間にか谷垣さんもそうした姿に憧れるようになっていったのです。
最初の実験は料理感覚から始まった
谷垣さんが研究を始めたきっかけは、ウミガメの鼻にプラスチックのストローが刺さって血を流している映像を見たことでした。「環境に優しいプラスチックを作りたいと強く思い、最初は生分解性プラスチックを自宅でつくる方法を検索し、牛乳や豆乳から生分解性プラスチックを作るところからスタートしました」と当時を振り返ります。
やがて、実験を進めるうちに、人にも環境にも優しい素材づくりに熱中するようになった谷垣さん。具体的には、カップ麺のかやくの袋をお湯に溶けて食べられる素材に変えることで、プラスチックゴミを減らしつつ、袋を開ける手間すらも省いてお湯をかけるだけでできる超即席カップ麺の開発に取り組んだのです。現在は、寒天や食品添加物の一種であるゲル化剤を使用し、ものづくりの面から研究を進めています。ゲルに触れたり観察したりすることで、その構造や多様な特性に魅了され、谷垣さんはゲルの“オタク”となったのです。
ADvance Labと次世代のオリジナリティ
ADvance Labでは、次世代研究者が集まり、それぞれが持つ好奇心から独自の研究に取り組んでいます。たとえ類似の研究が存在していても、「似ているから自分はやらなくても良い」とは考えず、自分がやることによるオリジナリティを見出しているメンバーたち。まだ目的に向けた手段の柔軟性がある次世代研究員だからこそできる研究を追求しているのです。
また、ADvance Labでは、分野を超えた学際的なディスカッションが日々行われています。谷垣さんは、このような場により多くの研究員が集まることでネットワークを構築し、一人では解決できないことも解決できるようになると考えています。「私はこのコミュニティを作るトリガー的存在になりたいと思います。そうして世の中を変えることが私が目指すボトムアップのイノベーションであり、今後も仲間とともに知の結晶を創り続けます。」彼女の言葉には強い決意が感じられました。
(文・齋藤美月)